逃げる前とは違う苦しみが、私の中に残っていました。
逃げてきたはずなのに、その傷に気づくたびに、心が痛みました。
過去の傷と向き合う日々が続く中で、時間が少しずつその痛みをやわらげてくれた。

でも、そのときの私は、「これから」のことなんて考えられませんでした。

暴力から解放された安心と恐怖

逃げると決めたとき、恐怖もありました。
どんな手を使ってでも見つけ出されるんじゃないか。
私の行動が相手を怒らせてしまうんじゃないか。
そんな不安が頭から離れませんでした。

でも、帰ってくるかもしれないという不安のない日、少しだけ安心することができました。
逃げたからといって、全てが解決するわけではありません。
それでも、私の選択は間違っていなかったと思います。

恐怖の中で決めた逃げるという選択。
そのおかげで、少しずつ安心して過ごせる日々がやってきました。

心に残る傷とよみがえる記憶

逃げてから、体の傷は時間と共に消えていきました。
だけど、残っていたのは目に見える傷だけじゃなかった。
目に見えない傷が心に残っていて、逃げたはずなのにずっと私を苦しめていました。

夜、子ども達が寝静まったあとや、日常のふとした瞬間に、過去の記憶がよみがえってきました。

車のクラクションや大きな音、エレベーターで男の人が近くにいるだけで、胸が苦しくなりました。
家では、テレビに映る男性の上半身の姿や、声を荒げる場面を見ることさえ辛い日もあった。

あのときの生活の中で、こんなにも自分の心が傷ついていたんだと気づきました。
気づくたびに、過去の記憶を確認しているようで苦しかった。

誰にも言えなかった本音

誰にも言えないこともありました。
心の奥にしまってることが辛くなるときもあった。
それでも誰にも言えず、自分だけの感情として抱え込むしかありませんでした。
外から見れば普通に生活しているように見えても、心の中では必死に耐えていました。

今はあれほど鮮明だった記憶が、心を守るためなのか、ただ時間が経ったからなのか、少しずつ薄れていることもあります。

時間が少しずつ心をやわらげてくれた

最初の頃は、ただ生きることで精一杯でした。
前向きになろうとか、希望を持とうとか考える余裕はありませんでした。
逃げると決め、流れに任せて過ごす中で、気づけば少しずつ心の痛みが和らいでいました。

時間が少しずつ味方になってくれていた。
ありきたりな言葉だけど、本当にそうでした。

過去の痛みや苦しみが完全になくなるわけではなく、まだ思い出して辛くなることもあります。
行けない場所や行くと嫌だなと思う場所もあります。
それでも、子どもたちとの新しい思い出で、少しずつ過去の痛みを上書きしています。

あのときは辛かったけど、今は離れてよかったと心から思っています。

今でも、思い出して苦しくなる瞬間はあります。
完全に消えたわけじゃない。

それでも、あの場所から離れたことだけは、間違ってなかったと思っています。
ここに書いたのは、逃げたあとに続いていた、私の心の現実です。

心の傷に気づきながらも、私はすぐに前を向けたわけではありませんでした。
▶︎逃げたあと、すぐに立ち上がれなかった現実